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依存症臨床の考え方


【目次】
00:15~ イントロ
00:23~ 依存症の発症:従来の説明
01:39~ 様々な依存物質についての疫学調査(アメリカ)
02:56~ 薬物乱用の危険性が高い子どもの条件、小児期逆境体験(様々な実験・調査)
07:28~ 孤立する依存症患者
08:20~ 信頼障害仮説とハームリダクション
10:37~ 依存症治療の初期目標
13:28~ かながわ依存症ポータルサイト

【概要文】
従来、依存症発症のメカニズムには遺伝的背景があると考えられていました。そこに環境要因や興味・知識の欠如が重なることで、依存症的な行動を開始し、行動を重ねていくうちに「やめられない脳」に変わってしまう、と説明されてきました。

依存物質には様々ありますが、アメリカでの疫学調査の結果を見ると、毒性のある物質を使用すると直ちに依存症になるわけではないことが分かります。
また、アメリカの研究によると、薬物乱用の危険性が高い子どもの条件として、「幼少期からキレやすい」、「薬物使用をしている友人・恋人が周囲にいる」、「薬物を生活圏内で入手しやすい」、といった環境因子の他、親の養育放棄や貧困など、心理的孤立をもたらすような状況が揃っていることが挙げられています。孤立が薬物への依存リスクを高めることは、ラットを用いた動物実験でも実証されています。
また、アメリカ・カナダで行われた調査では、小児期逆境体験が多いほど依存症発症リスクが増大することが示されています。
神奈川県立精神医療センター依存症外来では、初診の患者に対して小児期逆境体験について調査しており、依存症との関連が示されています。逆境の数が多いほど、不信感は強く、不信感が強ければ強いほどストレスへの対処能力が下がり、ストレス対処能力が下がるほど、薬物依存症の重症度は高くなる、というデータがあります。

神奈川県立精神医療センターにおいて、死亡連絡を受けた患者さんのカルテ調査をすると、その死因から分かるのは、「依存症患者は非常に孤立しやすい」ということです。

「信頼障害仮説」で考えると、小児期逆境体験から、人への不信感が増大し、一人で我慢・努力した結果、ストレス対処能力が低下、不安・孤独に陥りやすくなり、依存症が重症化する、と見ることができます。したがって、治療過程はその逆の過程を経る必要があります。
ここで重要なのが「ハームリダクション」という考え方です。不信感を募らせた結果、依存症になっている患者に対して、懲罰的に接するのではなく、受容・共感を持って、「すぐにやめられなくて当然、外が減らせればOK」という態度で接します。
依存症の初期対応において重要なのは「治療的愛着関係の形成」です。共感・協働・愛着というステップを踏みながら、年単位の経過で治療にあたります。
神奈川県立精神医療センターは、県からの委託を受けて「かながわ依存症ポータルサイト」というページを運営しています。依存症に対応可能な医療行政機関や施設を探している方はぜひご利用ください。