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乳がん診療における地域医療連携充実にむけて 〜乳がん術後の経過について〜


【目次】
00:12~ イントロ
00:54~ 乳癌の特徴
04:01~ 乳癌の進行度
05:12~ 初心から手術、治療の流れ
06:50~ 術後治療(再発予防の治療)
07:06~ 切除可能乳癌の治療パターン(症例供覧)
09:33~ 最も頻度の高い治療
10:13~ ホルモン治療の副作用
10:57~ 乳癌の予後
11:46~ 再発しやすい時期
12:39~ 再発しやすい部位
13:02~ 乳癌の再発率
13:36~ 乳癌の術後フォローアップ
15:32~ 実際のフォロー例
16:07~ 連携の対象・お願いしたいこと
17:50~ 乳癌の再発率を下げうる生活習慣

【概要文】
乳癌は、日本人女性が最もかかりやすい癌と言われており、生涯で9人に1人の女性が罹患します。年間10万人以上が罹患し、罹患率は増加傾向にあります。横浜市立大学附属病院、センター病院での手術件数も増加傾向です。
日本人の悪性新生物の中でも罹患数の多い胃癌・大腸癌・肺癌は、加齢と共に発症率が高くなりますが、乳癌の場合は40歳代後半から60歳代に発症のピークがあります。ただし、患者の約40%は65歳以上です。
乳癌はサブタイプによって性質が異なります。「HER2(増殖スイッチ)が多いかどうか」と「ER(エストロゲンレセプター)が陽性かどうか」の2つのバリエーションの組み合わせがあり、4タイプに分けられます。サブタイプによって、効く薬剤がことなるため、重要な指標です。
また、サブタイプによって予後が異なります。最も予後が悪いのが、HER2陰性・ER陰性のトリプルネガティブで12%程度、最も予後良好なのがHER2陰性・ER陽性のルミナールタイプです。ER陽性タイプは浸潤性乳癌全体の7~8割を占めます。

乳癌の進行度は、0~Ⅳまでの5段階に分けられ、0は非浸潤癌、それ以外は浸潤癌です。
非浸潤癌の場合は手術と放射線のみの局所療法で済みますが、浸潤癌になると、手術+放射線に加えて、再発予防の薬物療法を実施します。

初診から手術、治療までの流れを紹介します。初診では、マンモグラフィ・超音波を実施し、疑わしい所見がみられた場合は針生検も実施します。1~2週間後に出される病理診断の結果を元に全身治療の方針を決定します。その後、画像検査を実施して病変の広がりを確認し、ステージと術式を決定します。
ER陰性乳癌やHER2陽性タイプでは、術前化学療法を4~6ヶ月実施した後に手術を行います。
手術で摘出した病変を病理検査に出して、その結果によって最終的な乳癌の診断がなされます。また、病理診断の結果を元に再発予防の治療を決定し、経過観察をします。術後は10年間のフォローが一般的です。
術後治療は、サブタイプに合わせて、効果のある薬剤を選択して実施します。

切除可能乳癌の治療パターンは様々です。講演では、いくつかの症例を挙げて、治療パターについて紹介しています。
最も頻度が高いのがER陽性乳癌なので、治療もホルモン(エストロゲン)治療の頻度が最も高くなります。女性の場合、閉経前後でエストロゲンの供給元が異なるため、それに合わせて異なる薬剤を用います。閉経前はタモキシフェンなど、閉経後はアロマターゼ阻害薬などです。それぞれに副作用があり、注意が必要です。

乳癌の10年生存率は80.4%で、他の悪性新生物と比較して予後は良好と言えます。しかし、他の癌と違って5年でプラトーにならず、生存率は下がり続けます。これは晩期再発の可能性を示しており、このため外来では術後10年のフォローを必要としています。
ホルモン陽性乳癌の場合、長期間経過しても再発リスクが持続し、ホルモン陰性乳癌は術後3年目まで再発リスクが高いことが報告されています。

乳癌が再発しやすい部位の中でも最も多いのが骨で、その他胸壁や肺・胸膜など様々な場所に再発する可能性があります。
乳癌のうちルミナールタイプは予後良好で、ステージ別で見ると、Ⅲ・Ⅳでは生存率が下がっていることが分かります。
術後フォローにおいて、「定期診察とマンモグラフィのみ」と「定期診察とマンモグラフィのみに加えて、画像検査や血液検査」を比較すると、生存率は変わらないことが報告されています。
定期フォローでは、3年以内は3~6ヶ月ごとに、4、5年目は6~12ヶ月ごとに、5年目移行は年に1回の問診・視触診を実施し、6~12ヶ月ごとに超音波、1~2年ごとにマンモグラフィを実施することが推奨されています。
現在のところ、血液検査の有用性を示した研究はありませんが、無症状乳癌患者に対して腫瘍マーカーをモニタリングすることには一定の意義があると考えられています。
定期的な検査を行うことで、安心感を得ることはできますが、被曝というデメリットや偽陽性のリスクもあり、メリットとデメリットのバランスを考えることが重要です。
講演内では、横浜市立大学附属病院での実際の術後フォロー例を紹介しています。

再発率は低いものの長期の定期処方を必要とする、ステージⅠ・Ⅱのホルモン陽性乳癌(閉経後)の患者を対象として、3ヶ月に1回クリニックで診察をしていただき、年に1回、附属病院で画像検査やその他の診察を行う、という「ダブル主治医制」で連携を行いたいと考えています。講演スライドでは実際の連携運用のシェーマを紹介しています。
横浜市立大学附属病院の乳癌診療体制も紹介しています。気がかりなことがあれば、クリニックからの紹介、もしくは患者自身による連絡で外来予約を早めることができます。地域医療セミナーを通じてフィードバックを行い、より円滑な運営ができればと考えています。

乳癌の再発率を下げうる生活習慣として、運動、肥満にならない(ただし何を食べても良い)ということが挙げられます。大切なのは「できること(治療)はしっかりやっているから大丈夫ですよ」という声かけでしょう。